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2012年10月16日 (火)

『町場の写真論~片手袋から見る人間の営み~』

Img_1597僕は写真に関して何も知らない。あくまで“片手袋写真”の専門家だ。しかし、それでも長年片手袋の写真を撮るうちに、写真そのものに対しても自分なりの考えがまとまり始めている。いや、写真論、なんて大袈裟なものではなく、あくまで写真における自分の好みがはっきりしてきた、という事なのだが。

門外漢の写真論、という事で言えば、南伸坊さんの『笑う写真』という優れた先例もある事だし、僕も稚拙さを承知の上でとりとめもなく綴ってみる。

毎週通っている築地で以前、外国の女性モデルを被写体とした撮影が行われていた。スタッフも全員スタイリッシュな外国の方だったし大掛かりな撮影であった事から、恐らく一流のファッション誌か何かの撮影だったのだと思う。

築地はご存じの通り雑然とした町だ。そこを縦横無尽に駆け回る、決して綺麗な格好とは言えない築地の親父達。そんな景色を背景に、全く不釣り合いな最先端モードに身を包みポーズを取るモデル。

お互い交差する事がないと思われていた二つの要素を対比する事で生まれるケミストリー。異様な光景であったが、その違和感こそこのグラビア撮影のテーマだったのだろう。

しかし、正直僕は嫌な感じがした。確かに面白い試みなのかもしれないが、生活感丸出しの恰好ながら、一人一人様々なドラマを秘めているであろう築地の親父達を、背景としてしか扱わないその感じ。自分達の預り知らぬ所で勝手に芸術とやらに奉仕させられているとしたら、あなたならどう思うか?

また、こういう事もある。同じく築地の路上で営業している小さな飲食店群。そこで通行人のすぐ横で丼ぶりなどをかっ込んでいると、観光客にカメラを向けられる事がある。確かに自分も数少ない経験ながら、海外の市場などでカメラを撮りまくった経験がある。自戒の意味も込めて書くが、撮られている側が果たして皆平気なのかどうか?

もう一つ。僕の住んでいる下町は週末ともなるとカメラを持って散歩する人達が大勢来る。これは町の活性化の為には非常に有難い事なのだが、問題もある。

「下町の生活を撮りたい!」。そんな日曜カメラマン達にとって、木造住宅や路地や生活感漂う軒先などは格好の被写体となる。しかし、そこで実際に日常を送る人々の中には、こういった行為を快く思わない人達も少なからずいる。何しろ中には、「何気ない生活感が良いね!」などと言って、ベランダに干してある洗濯物を撮っていく人もいるそうだ。

今まで挙げてきた具体例に共通しているのは、“撮る側と撮られる側、それぞれの世界の乖離”という事ではないかと思う。

築地の親父達や洗濯物を撮る側はレンズを覗きこむ際、自分の住む世界と地続きの現象としてそれらを見ていたか?むしろ自分の住む世界とは完全に乖離した別世界の現象としてそれらを見ていないか?つまり、どちらかと言えば好奇の視線を向けていたのではないか?

勿論そういった写真の存在を否定する事は出来ない。だが少なくとも僕には“冷たい写真”として感じられる。

僕が魅かれるのは、撮る側が撮られる側に対し、自分の住む世界と地続きのものとして視線を向けている写真だ。築地の親父達の仕事によって自分の食卓に魚が並んでいる事を、腹が減っている時に食べる飯は例え路面の小さな店の丼ぶりでも最高の御馳走である事を、晴れた日の午前中に洗濯物を干し終わった時の達成感を、そんな人間の営みそのものを抱きしめる温かみを持った写真だ。

それらを踏まえて、僕が片手袋の写真を撮る時に気を付けているのは、少し抽象的だが“手袋を片方だけ落としてしまった人の悲しみを忘れない”という事である。

自分でもやってしまって再確認したのだが、手袋を片方落とすのって結構ダメージがある。つまり町中に点在する片手袋は、一つ一つ持ち主の悲しみを背負った存在なのである。

勿論、片手袋は被写体として絶妙なおかしみも内包している。しかし、片手袋の背負った悲しみを忘れて物体としてのおかしみにばかり振れてしまうと、なんとも冷たい写真になってしまう気がする。

だからこれからも、僕は片手袋の背後にある人間の営みの一側面に思いを巡らせながら、シャッターを切っていこうと思うし、それこそが片手袋道を歩み続ける最大の理由であろう。

片手袋を通して人間を見ているのだから。

 

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